生活

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俺の話をしよう

先月父親が死んだらしい

いや、厳密に言うとこれから死ぬらしい

それは実家に帰ると、安楽死の同意書の様なモノを母が出してきたからだった。

父親とはかれこれ7、8年会っていないそれもよくある離婚話で意外性もなく時間の問題だと子供ながらに感じていた。

ある程度物心ついた頃には家族なんてものは既に終わっていた、父は犯罪者 母は鬱病、姉は引きこもり そんな不出来な人間たちが家族のフリをしながら一つ屋根の下暮らしていただけだった。

中学時代は特に違和感こそなかったものの、高校にもなると「あぁ...俺の家は普通じゃないのか...」と感じることが日に日に増えていった。


ある日、母が「先生」という人を家に連れてきた。スピリチュアルパワーで姉の引きこもりを治すというのだ。

犯罪者、鬱病、引きこもり “宗教”←NEW!

かろうじて保たれていたダムが決壊したのを感じた

そんな事は御構い無しに、高校時代の俺はスカイプチャンネルの女に電話越しにオナニーさせることと部屋をイカ臭くさせることの2つに青春を捧げていた。 俺は俺でそれどころではなかったのだ。

俺は興奮して2chに「家に宗教家が来て除霊するらしいwww」みたいなスレを立てその光景を実況中継しようとした。

「先生」が言うには姉にはキツネの霊が取り憑いておりそれが悪さをしているとのこと いい商売だ

因みに先生は前世を見る事ができるらしく、俺の前世は溺れ死んだ海賊らしい いい商売だ


家はよくわからない除霊グッズが置かれる様になり、そのうちの一つ玄関にあった清めた盛り塩がある日溶けて真っ黒になっていた。 俺は見なかった事にして台所から新しい塩に替えておいた。ファインプレーである。

スレは特に反応なくすぐ落ちた。

今では引きこもりだった姉も社会復帰し、今年から看護師として働き、無事二回目の婚約破棄をしたらしい。二回とも姉の浮気である。

元々そんなに兄弟仲は良くないが、まだ遊びてえよな みたいな話をした 血は争えない

父の同意書については特に話もしなかった、それはもう話のついている事であって今更話をする事でもないからだ。もはや今になってこいつはまだ俺たちに迷惑をかけるつもりなのかといった感情もない、もう終わった話なのだから。


父は今頃どこかで野垂れ死んでいるだろう、だけど今でも地元の近くを通るとどこか父の残像を目で追ってしまう。

特技は飲酒運転と強く言い張り常に時代と逆行する姿はどこか好きだったのかもしれない

生きていると許せない事がありすぎる、ただ息をしているだけでも自分の中で精算のついてない事が増えていく、いつしか辛い事があると笑い話にして片付ける弱い人間になってしまった。
こうやって一つ一つを切り売りしているといつか自分の中の「イイ人」のイイの部分がゆっくりと溢れ落ちていく気がする。もう戻ることはない。

明日からまた仕事だ。